財団を作り、金銭面での援助を与える芦屋さんの活動は、移植を受けたくても経済的問題で受けられずにいる人の救済になる。
そういうケースを目の当たりにしている芦屋さんからすれば、有名私立に通い、茶道の心得のある、あからさまに裕福な家庭の人間には嫌味のひとつも言いたくなるのだろう。
なにも知らないで、言葉尻だけで不機嫌さを顔に出してしまった自分が心底情けなく思えた。
「ごめんなさい」
謝るも、謝らなくていいと芦屋さんは言う。
「俺だって菜那のこと、まだほとんど知らないし、菜那だって俺のこと全然分からないでしょ?」
「芦屋さんは情報が出回っているので。えっと、たしか、弟さんがいらっしゃるんですよね?」
以前、芦屋さんについて調べている時に目にしたことを口にした。
でも口にしてしまった、と思った。
「俺のこと、気にして調べてくれて嬉しいな~」
芦屋さんは案の定、笑顔で。
「これ、前にも似たようなやり取りしましたよね?」
そう言うと「ハハ。そうだったね」と声に出して笑った。
「でも俺のことは俺に聞いてもらえた方がもっと嬉しいかも。正しくない情報があったりするからさ」
「じゃあ弟さんも?」
聞けば芦屋さんは首を横に振った。
「弟は本当にいるよ。自転車が趣味でさ。夏休みは自転車で日本縦断の旅に出ていたんだ。今度の連休もどこかに行くって言っていたな。まったく、あいつは自由に好きなことが出来てうらやましいよ」
芦屋さんが切なく微笑んだ。
私も移植したお腹を直接圧迫するようなドッジボール・サッカー・鉄棒などの運動は出来ない。
食にも気を使うし、一生、欠かさずに飲み続けなければならない薬がある。
命を頂いた代償にしては小さいものだけれど、ファーストフードを爆食いしてみたり、徹夜してみたり、体に悪そうなことをしてみたい。
残された父を思えばすぐに消えてしまう欲望も、芦屋さんには自由でいて欲しいとなぜか強く思った。


