七夕の伝説


「もしかして最近も眠れてないんですか?」


話の裏を勝手に読み、聞くと、芦屋さんは不思議そうに首を傾げた。

それから合点がいったらしく、微笑み、何度か頷くと、答えをくれた。


「今日まで暇さえあればデートのプラン考えたり、菜那との会話を思い出したりしていたんだ。想像するだけで楽しくて、菜那のこと考え過ぎて、菜那が夢に出てきたよ」

「つまり夢を見られるくらいは眠れているってことですか?」


確認するようにして聞くと、芦屋さんは頷いた。


「薬はさ、やっぱり使わないと眠れないんだけど、ここ最近は目覚めがすごく良くて、体調も万全。お肌もツヤツヤなんだ。触ってみる?」


頬を叩き、肌ツヤの良さをアピールするという、急に女子っぽくなった芦屋さんを見て、笑いがこみ上げてきた。


「いいよね、菜那の笑顔。好きだよ」


サラッと「好き」と言われて、笑顔が固まる。

反対に芦屋さんが今度は笑った。


「初々しい感じもほんと、可愛い。耳なんて、真っ赤」


芦屋さんの視線が耳に向けられていると気付いて余計に耳が熱くなる。

どうしてよりによってポニーテールにしてきてしまっただろうと髪型にまで後悔しているところだ。

いや、きっと私だけじゃない。

誰だってイケメンの、それも人気芸能人に好意を寄せられて口説かれたら赤くもなる。


「可愛いね。抱きしめたいくらい」


そう言われて顔全体が熱くなった。


「そういうこと言わないでくださいっ。あと見ないでくださいっ」


真っ赤になっているであろう顔を背け、必死に訴えると、芦屋さんの笑い声が隣から聞こえた。

楽しんでもらえていると思えたら嬉しいけれど、私の心臓は今まで以上に速く打ち付けていた。