「じゃあさ、友達の垣根を超えて俺と付き合ってみない?きっともっと楽しいよ?」
「結構、しつこいですね」
呆れて笑いながら言うと、芦屋さんは立ち止まり、真剣な顔で私を見下ろした。
「俺、本気だから」
女装している顔立ちに相応しくない低い声。
でも、その声は胸に響き、鼓動を速めていく。
「本気で菜那と付き合いたいって思っている。友達なんて口実だよ。そうでもしなければ会ってくれないと思ったから。ねえ、菜那はどう?俺のこと、どう思っている?」
「それは」
芦屋さんが普通に接してくれるから自然体でいられるし、ドキッとさせられることもあるけれど、一緒にいて楽しい。
でも恋愛はしないと決めているし、越水さんとだって約束した。
「私の役割は同じ境遇の友達です。それにまだ三回しか会っていないんですよ?人ってそんなに簡単に好きになれるものなんですかね?」
質問に質問で返すことで気持ちをはぐらかした。
すると芦屋さんは隣に立ち、目的地へと歩きながら話し始めた。
「好きになるのに回数は関係ないよ。俺は初めて会った日から菜那のこと忘れたことがなかったわけだし」
印象に残るようなことはしていない。
思い当たることと言えば……


