七夕の伝説


芦屋さんの声がくぐもって聞こえたので、顔を見上げると、不機嫌な膨れっ面をしていた。


「あはは。なんですか、その顔」


整った顔が台無しの顔に堪え切れず笑ってしまうと、芦屋さんはさらに頬を膨らませた。


「あはは。やめてください、その顔。あはは、ちょっと、ツボなんですけど」


止まらない笑いに、涙さえ浮かぶ。

繋がれているのと反対の手で拭っていると、芦屋さんがハンカチを差し出してくれた。


「あ、これ」


七夕の日に渡したハンカチだ。


「ありがとうございます」

「ありがとう」


言葉が重なり、瞬間、見つめ合う。

それから同時に吹き出した。


「なんで菜那がありがとうって言うんだよ」


ありがとう以外の言葉が浮かばなかったからだけど、たったこれだけのことで互いに笑えるなんて不思議だ。

でも……


「楽しい?」


芦屋さんに聞かれて頷く。


「楽しいです」


素直に笑顔で口にすると、芦屋さんは満足そうに微笑んだ。