「すごいですね。みんな、見ていますよ」
「菜那のこと見ているんじゃないの?」
「それは100パーセントないです」
速攻で否定すると、芦屋さんは「ハハ」と声を立てて笑った。
「そんな卑下することないよ。菜那は可愛いんだから。俺が見初めたくらいだよ?自信持って」
「友達、ですよね?」
芦屋さんの言葉尻が気になって確認するようにして聞くと、芦屋さんは目を細めて微笑み、身を屈めて言った。
「恋人でもいいんだよ」
「それは……社交辞令として受け取らせていただきます」
視線を外し、受け流すように答えると、芦屋さんはまた声を出して笑った。
「ハハ。菜那は反応も可愛いよね。ほんと、恋人になってくれたらいいのに…って、それより今は移動した方が良さそうだね。雨降ってきたら行けない場所だから」
さらりと話題を変えられて、感情の置き場に困る。
ただ、行き先を聞いていなかっただけに、向かう先が屋外であることを知って、どこへ連れて行ってもらえるのか、それが楽しみになった。
芦屋さんの後を付き、電車を乗り継ぐ。
行き先は、鎌倉だった。


