七夕の伝説


「待ったぁー?」


心ここにあらずと言った私に声を掛けてきたのはセーラー服を着たボブの黒髪、パッチリ二重の、目を見張るほど可愛い女の子だった。


「菜那。お待たせ~」


名前を呼ばれても知り合いに思い当たる人はいなくて。


「すみません。人違いではありませんか?」


これだけの可愛い子を忘れるはずがないと、低姿勢に答えた。

それなのに目の前の女の子は突然「ブハッ」と吹き出し、可愛い顔をくしゃくしゃにして笑った。


「人違いって。俺だよ、俺。芦屋星」

「………えっ?!」


構内に響き渡るほどの声が自分の口から出たことに驚いたけれど、それ以上に目の前の女の子が芦屋さんだという事実に驚く。


「信じられない。普通に女の子としていけますよ。可愛い顔立ちしているんですね」

「ありがとう。でも、俺的には菜那に「カッコいい」って言われる方が嬉しいけどね。それにこれ。プロのメイクの技だから」


パチっとウインクした芦屋さんを見て、私が男の子なら一瞬で恋に落ちるだろうな、と思った。

それほど女装した芦屋さんは可愛いのだ。

それに完璧な女装のおかげで芸能人だと意識することも、記者やファンに抱いていた不安も、異性という概念も取り払われた。

デートという名のお出かけも友達と出かけている感覚に変わったのだから本当にすごい。

ただ、駅周辺にいる男性たちからは年齢問わず熱視線が送られてくる。