七夕の伝説


「さて。お礼のメールを送ろう」


部屋に入るなり、スマートフォンを手に文面を考える。


【ケーキ。美味しかったです。ありがとうございました。ご馳走さまでした。あと越水さんにもよろしくお伝えください】


こんな感じでいいかな、と思いながらも他に思い付かず、送信ボタンを押す。

するとその数十秒後。

着信がきた。


「今、大丈夫?」

「あ、は、はい」


まさか電話がかかってくるとは思わなくて、その場で正座してスマートフォンをしっかりと耳に当てる。


「ケーキ。喜んでもらえて良かったよ」

「本当にありがとうございました。でもあまりに大きかったのでお隣の前田さんにもあげました」


正直に言うと、笑い声が耳元に届いて、私の口角まで上がった。


「ところでさ、再来週の土曜って空いてないかな?誕生日のお祝いを兼ねたデートをしようよ」


デートという聞きなれない単語に答えを見失う。


「菜那?」


呼ばれてハッとする。


「すみません。でも、あの。誕生日はケーキをいただいたのでもう十分です」

「じゃあ、ただのデート。どう?」

「友達、ですよね?なんでデートなんですか?」


そう聞いて、芦屋さんが覚えていてくれたことに気が付いた。