七夕の伝説


「菜那。体は大丈夫なのか?」

「うん。ありがとう。大丈夫だよ。先月の定期検診も問題なかった」

「そっか」


ぶっきらぼうに、笑いもせず、それだけ言って目の前からいなくなる。


「もう少し愛想良くてもいいのにねー?」


昴のお母さんは昴に聞こえるように言うけれど、愛想が良くなくても昴の優しさは十分伝わる。


「母さん。ケーキひとりで全部食うなよ。これ以上太ったらヤバイからな」


ほら。

昴が靴を履きながらお母さんに言った言葉は、お母さんの体を気遣うものだ。

昴のお母さんは高脂血症で服薬治療中だから。


「優しいよね。昴は」


バイトに行くという昴を追うようにして玄関先から失礼した時も、玄関扉をさりげなく開けていてくれた。


「昴ってモテるでしょう?」

「興味ねーよ。つーか、いつもありがとな。俺も帰ってから食わせてもらうよ」


昴は甘いものが好きだ。

顔も母親似だし、味覚も似ているし、口は悪いけど仲いいし、素敵な親子だな、って思う。


「なんだよ?」

「ううん。なんでもない。それより昴、バイトでしょ?無理しない程度に頑張ってね」

「おう。菜那も早く寝るんだぞ」


昴はそう言うと子供をあやすように私の頭をポンポンと2回、優しく叩いてから駅の方へと歩いて行った。