七夕の伝説


「おはよう」


湿気と走ったせいで乱れた前髪を気にしながら教室の扉を開け、クラスメイトと挨拶を交わし、窓際の一番後ろの席に着く。


「菜那」


鞄から教科書を出していると名前が呼ばれた。

声の方に顔を向けると高校に入学して出来た友達の麻生佳苗が口元に笑みを浮かべてこちらに向かって近づいて来た。


「佳苗、おはよう!今日は朝から良いことでもあった?」


ボーイッシュなショートカットに細身で長身の佳苗は低血圧で朝が弱いためにいつも仏頂面で登校して来る。

だからこそ佳苗が朝から笑顔なのはとても珍しいことでそう聞いてみたのだけど。


「なにがあったのか、当ててみようかな。えーっと、そうだなぁ」


考えるように腕組みをすると、目の前に小さな紙袋が差し出された。


「え?」


驚いて佳苗の顔を見上げると満面の笑みで。


「菜那!誕生日おめでとう!」


と言われた。


「わぁ!嬉しい!ありがとう!」


期待していなかったわけじゃない。

でも実際にお祝いの言葉をもらい、プレゼントまで用意してくれると嬉しくて、声が弾む。


「菜那ー!私からもプレゼント!」