「ひとつ確認してもいいかしら?」
「あ、はい」
短く答え、顔を上げる。
「芦屋の恋人になりたいと思う?」
「いえ」
即答したことが意外だったのか、越水さんの左側の眉がピクッと動いた。
だからきちんと口にする。
「私はいつ再発するか分からない病気を抱えているので、恋人も、結婚も、必要のない人生を歩むと決めています。願掛けのためにも恋愛は捨てました。だからどんなに素敵で優しくても、芦屋さんに対して恋心は抱きません」
はっきりと言えば、越水さんは力が抜けたように椅子に体をもたれた。
「良かったわ。それを聞けて安心した」
越水さんが私に望むのは芦屋さんが芸能活動を継続してくれる要因となることだけ。
人気絶頂の時にスキャンダルが起きて困ることくらい、芸能界に疎くても想像するのは簡単だった。
ただ、芦屋さんはどうして芸能界を引退したいなんて言い出したのだろう。
自らが望んで飛び込んだ世界になにがあったのか。
芦屋さんのことをもっと知りたいと思った時、車がナビを無視して、別の方向へ走り出したことにナビの音声で気が付いた。


