七夕の伝説

同じ境遇、医療関係者、その家族……。

事情を丸ごと受け止め、傷ごと愛してくれる人は探せばいるかもしれない。

でも、長生き出来るか分からない私を嫁に欲しいと願い、迎え入れてくれる親を持つ人は少ないだろう。

愛し、愛された後、結ばれない。

不幸な運命をたどり、互いが傷付くくらいなら、恋人との甘い時間や結婚を望まなければいい。

恋愛の「れ」の字は知らなくても生きていける。

そう思うようにして恋愛は諦めた。

なにより大切な願い事を叶えてもらうために。

織姫様、彦星様。

偉そうに、同情なんかしたりしてすみません。

今年も七夕の願い事を、勝手ながらさせてください。


「生き死にの順番を守らせてください」


長生き出来るよう頑張りますから、"父を看取らせて"。

それだけ。

いや、欲を言えばもうひとつ。

楽しく過ごせたら。

もうそれで十分。


「…って、いけない。急がなきゃ」


願い事をしている時間ではなかった。

駅まで走り、到着した電車に飛び乗り、学校へと向かう。