七夕の伝説


「あ、ありがとうございます」


お礼を言うと、芦屋さんは近くにあった椅子を私に腰掛けるよう勧めながら言った。


「ねぇ、約束。覚えている?誕生日のお祝いするって。それに借りていたハンカチも返さないといけない…って、あれ?どうしたっけ?菜那が来てくれるかもしれないって思って持って来たはずなんだけど」


辺りをキョロキョロと見回す芦屋さんに、ハンカチも誕生日も気にしなくていい、と伝える。


「でも」


芦屋さんの声を遮るように言葉を重ねる。


「今日、講演会に参加させてもらえました。それだけで十分過ぎるくらいですし、なにより、覚えていてくれたことが嬉しかったです。色々とありがとうございました」


軽く頭を下げると芦屋さんは柔らかく微笑んだ。


「それで、講演会はどうだった?少しは役に立った?」

「もちろんです!」


食い気味に答えると、芦屋さんは驚いたように目を少しだけ見開いた。


「すみません」


急激に上がってしまったテンションを椅子に深く腰掛けることで落ち着かせてから、言葉を選びつつ、ゆっくりと答える。


「講演内容は素人にも分かりやすい、医療用語の少ないものだったので、とても勉強になりました。これから担当医と話す時も今までより、話が分かるような気がします」