「もう医師に診てもらったから。ほら、今日、脳死判定の講演をしてくれた医師がいただろう?」
家族優先提供の話をしていた赤羽という名の医師のことだとピンと来た。
「分かったみたいだね。その赤羽先生に診てもらったから大丈夫なんだよ。ただの疲れだって言っていたし、菜那に移すことはないから」
言われてハッとした。
私は芦屋さんの体調だけを心配して、自分の体のことを考えていなかったのだ。
私も移植経験者。
風邪引いている人のそばにはなるべく寄り付かないようにしていたのに、自分の体を二の次にしてしまっていたなんて。
「ごめんなさい、お母さん」
罪悪感を抱き、自分の体を両手で包み込む。
それからふうっと息を吐き出し、肩に入っている力を抜くと、芦屋さんの手が頭に乗った。
「菜那は真っすぐで優しいいい子だね」
囁くような静かで優しい声に、ドキッとした。
移植を受けている者同士という意識でここまできたけれど、相手は人気絶頂の芸能人なのだと改めて感じさせられる。
一般人の、それも異性に慣れていない私が接するには、芦屋さんの笑顔が心臓に悪いことは当たり前で。
事実、芦屋さんの手が頭から離れても、鼓動音がドクンドクンと耳にうるさいくらい響いていた。
「何か飲む?」
聞かれてもすぐに答えられなくて、立ちすくむ。
見兼ねた芦屋さんがミネラルウォーターを手渡してくれた。


