七夕の伝説


「とても良い勉強になりました。ありがとうございました」


終演後、受付に声を掛け、駆けつけてくれた越水さんに、席を用意してくれたお礼を持参したお菓子を渡しながら伝えた。


「ありがとう。わざわざよかったのに。あ、でもお礼は芦屋に直接言ってね。主催者に無理言って、あなたのために一席用意したのは彼だから」

「どうしてそこまでしてくれたのでしょうか?」


聞いても越水さんは肩をすくめて見せるだけで、関係者以外立ち入り禁止と書かれた札を避け、ずんずんと先を進む。

小走りで付いて行くと、"芦屋星控え室"と書かれた部屋の扉の前で止まり、ノックした。

コンコン


「はーい」


中から芦屋さんの気だるそうに間延びした声が返ってきた。

扉を隔てた向こう側に本当に芦屋さんがいるのだと思うと、今更ながら緊張する。


「如月さん、連れて来たわよ」


越水さんがそう言うや否や、扉が開いた。


「本当に来てくれたんだ!」


芦屋さんの眩しい笑顔に言葉を失い、お礼の言葉すら出てこない。

固まる私の背中に越水さんの手が触れた。


「私はこのあと主催者の方に挨拶に行って来るから、中でゆっくり話しなさい」


越水さんはそう言うなり、背中に触れていた手に力を入れて、私の体をグイッと室内に押し込んだ。


「おっとっ!」


押された時の力が思っているよりも強くてバランスを崩す。

そこを芦屋さんが支えてくれた。


「大丈夫?」

「あ、はい。すみません」