「うわぁ」
想像していたよりも広い会場にため息が漏れ、足が止まってしまう。
「すみません。通していただけますか?」
「あっ!すみません」
声を掛けられ、後ろから来る人の邪魔になっていることに気付いた。
急いで扉の横に移動し、また会場を見回す。
「ここにいる人たち全員、移植医療に関係のある人たちなのかな?」
移植を必要としていた頃の自分自身の姿を重ね合わせつつ、こんなに移植を必要としている人がいるのだと思ったら感慨深くて、思わず呟くと、隣から答えが返ってきた。
「芦屋のファンが3分の1、といったところかな」
独り言に答えが返って来たことに驚き、声のした方に目を向けると、先程受付で対応してくれた男性の隣に、スーツに黒髪ロングヘアの、スマートな女性がいた。
「如月菜那さん、ね?」
「は…い」
初対面の人に名前を呼ばれ、ぎこちなく頷いて答えると、女性は柔らかく微笑み、スーツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、そこから丁寧に名刺を一枚差し出した。
「芦屋のマネージャーの越水です。先日はどうも」
「あ、越水さん。すみません。えっと、如月菜那です。頂戴します」
受け取り方はよく分からなかったので、越水さんがしているのと同じように両手で受け取ると、また柔らかく微笑まれた。
「すぐにでも社会に出られそうね」
褒め言葉なのかもよく分からず。
曖昧に微笑んで見せると、越水さんはふふっと笑った。
「可愛らしいお嬢様。芸能界にはあまりいないタイプだわ」
これもどういう意味なのか。
いまいち、越水さんの言わんとすることが分からず閉口してしまう。
そのうちに開演開始を伝えるブザー音が鳴り響いた。


