七夕の伝説


「ちょっと待って。どういうこと?誕生日のお祝い?」

「うん。話の成り行きでね、昨日が誕生日だ、って話したら今度お祝いしてくれるって言ってくれたの。社交辞令だと思うけど『きっとまた会えるから』って」


私の言葉を受けて顔をしかめた佳苗は理絵の方を向いて、それから私に言った。


「社交辞令じゃなかったら、それ、めちゃくちゃ怪しいよ。新手のナンパかなにかじゃないの?連絡先は?」


交換していないと首を横に振ると、ふたりはあからさまにホッとした顔をした。


「本物かどうかも怪しい。簡単な口約束。信じちゃダメだよ」

「悪い人には思えなかったけどなぁ」


芦屋さんの声や表情を思い浮かべながら言うも、佳苗がキツい口調で言う。


「悪い人が悪い顔していたらバカでしょ」


それでも…と反論しようと思った。

でも、たったの数十分、一緒に過ごしただけでは否定出来るほど相手のことを知らない。

情報はネットの中のみで、本当に会いに来てくれる確証だってない。

現に1週間経っても、2週間経っても、結局、2ヶ月経っても音沙汰はなかったのだから。

あれは別人、もしくはパニック状態だった私の脳が勝手に作り上げた幻想。

そう考えれば、芦屋さんのことを気にすることもなくなる。

そのはずだったのに……。