眉根を寄せて笑った芦屋さんを見て、私もなんだかおかしくて笑う。
すると芦屋さんは私の顔をジッと見て言った。
「ねぇ。名前、聞いてもいい?」
「あ、如月菜那です。菜っ葉の菜に那覇の那でナナです」
もう会うことはないだろうけど、聞かれた通りに名乗ると、芦屋さんは記憶するように何度かボソボソと口にしてから、私の目を見て言った。
「菜那」
「あ、はい」
いきなり呼び捨てにされるとは思ってなかったから、返答に焦ってしまった。
恥ずかしくて俯く私の視界に入るように芦屋さんは身を屈め、顔を覗き込むようにして言った。
「もしまた会えたら誕生日のお祝いをしよう。ハンカチもその時返す」
「あ、いえ。お気になさらないでください」
ハンカチは返してもらう必要もないと言った私の頭に芦屋さんは手を乗せ、少し乱暴に撫でた。
「好意は素直に受けること。大丈夫。きっとまた会えるから」
「そう、ですかね?」
そんな偶然、起こり得るだろうかと首を傾げると、芦屋さんの背後に父の姿が見えた。
「お父さん!」
手を上げて父を呼ぶと、芦屋さんも背後を見て、それからまた私を見下ろし、「じゃあ、またね」と言って去って行った。


