七夕の伝説


『菜那。やっと駅に着いたよ。今、どこにいる?』


寝起きの赤い目でスマートフォンを操作している芦屋さんのことを気にしつつ、父の姿を探すように辺りを見渡す。


「改札口の近くにいるの。お父さんは?今どこ?」

『改札口…あぁ、あそこだな。今、そっちに向かうからそこで待っていてくれ』


通話を切り、自分の姿が父の目に入りやすくなるように立ち上がり、父の姿を探す。

でもその前に。

あくびをして目に涙を溜めている芦屋さんにハンカチを手渡しながら話す。


「芦屋さん。父がすぐ近くまで来てくれています。もしどこか行く場所があるなら一緒に車に乗って行ってください」

「ありがとう。でも俺の方はすでにマネージャーに連絡済みで、こっちもそろそろ迎えに来るって連絡が入っているから大丈夫だよ」


それなら良かった。


「色々ありがとうございました」


頭を下げてお礼を伝えると、芦屋さんは立ち上がり、それからニコリと微笑んでくれた。


「こちらこそありがとう。ハンカチも、それから肩まで貸してもらっちゃって」


そう言うと芦屋さんは私の制服に視線を下げた。


「それ、S女の制服だよね?学校、楽しい?」

「はい。実は今日誕生日で。友達からお祝いしてもらいました」

「誕生日なの?それはおめでとう」


言ってあざとかった、と反省。

これでは「おめでとう」の言葉を催促したみたいだ。


「すみません」

「謝る必要ないよ。知っていれば何か用意してあげたのに…って、無理な話か。初対面だもんな」