「あったかいな」
しばらくして芦屋さんの吐息混じりの声が耳元で聞こえた。
「なんだか懐かしい、いい匂いがする」
雨による湿度で、密着している部分にかきはじめていた汗。
緊張も混じり合って余計に吹き出てきているのに、それをいい匂いだなんて、恥ずかしい。
「あの」
さすがにこれ以上密着しているのは無理だと訴えようとした時、ズシッと肩に重みを感じた。
どうしたのかと下がった右肩の方を黒目だけ動かして見てみると、芦屋さんは目を閉じていた。
「寝てる?」
こんな簡単に寝ちゃうなんて、よほど疲れているのだろう。
ドキドキするし、汗の臭いは気になるけど、そのまま肩を貸すこと15分。
スマートフォンが震えた。
「ん?電話?」
目を開けた芦屋さんは自分のスマートフォンを取り出し確認した。
でも着信を知らせているのは私のスマートフォンだ。
「出て」
短く言った芦屋さんに小さく会釈してから通話ボタンを押す。


