七夕の伝説


老いた祖父母の悲痛な叫びと涙を見て、痛感した。


「だから私は七夕の願い事も、お正月の願い事も、クリスマスも、『生き死にの順』を願うんです。今は薬や病院にお世話になりっぱなしの、生かされているような状態ですけど、それでも、私は父よりも1日でも長く生きる。生きなきゃいけないんです。父を見送るために。そのためなら恋愛なんてしなくていい。恋愛を犠牲にしてでも私は生きないといけない。生きたいんです」


私は空を見上げ、宣言するようにはっきりと口にした。


「きみは……すごいな」


芦屋さんのため息混じりの声を耳にして隣を向くと、私がしていたのと同じように空を見上げていた。

それに続いて私もまた顔を上げる。


「願い。叶うといいね」

「はい」


力強く頷いた。

その次の瞬間、ピカッと稲光が起き、ゴロゴロゴロという雷鳴が轟いた。


「キャー!」


お腹に響くような雷鳴と悲鳴が現場をさらに怖がらせる。


「お父さん……」


心配で父を呼ぶと、芦屋さんが私の肩に腕を回し、ギュッと抱き寄せてくれた。


「大丈夫だよ。大丈夫。秒数的に近くには落ちてない。お父さんは無事だよ」


力強い声に、確証はなくても父の無事を信じることが出来た。


「すみません。何度も。でも大丈夫です。ありがとうございます」


芦屋さんの腕から逃れるように身をよじる。

でも離してくれない。


「お父さんが来るまで。このままでいよう。実は俺、雷が怖いんだ」

「え?」


見れば芦屋さんは眉根を寄せていた。

本心なのか、私に気を使わせないための嘘なのか。

マスクで表情が隠されているから正確には分からなかったけれど、そこは芦屋さんの言葉を素直に受け取り、ドキドキしながらも寄り添うことにする。