この伝説を読み、俺はいったい、なにを試され、なにを間違えたのだろうかと考えた。

俺の手元には彼女に返し忘れているハンカチと折り畳み傘がある。

天女の羽衣のように隠し持っていたわけではないし、彼女自ら貸してくれたものだから、これがどうしても必要というわけではなかっただろう。

それなのに、互いの気持ちが通じ、これから、という時に彼女は離れていってしまった。

まるで、天女が羽衣を隠し持っていたことを知り、怒って姿を消したかのように、彼女は俺の元から姿を消したんだ。


「私に会いたいと思うなら」


天女は若者に慈悲を与えたが、彼女は条件すら出してくれなかった。

ただ、順序は逆になるけど、俺は彼女のお父さんから試されていたことがある。

それは弟の臓器提供の許可を両親から得てくることと、彼女にプロポーズして受けてもらうこと。

彼女の再発が分かった日、彼女のお父さんの前で話した。


『弟が脳死になり、弟の意思を尊重するか、必要としている人を助ける決意をするか、どうしたらいいのか迷っていたのですが、弟の腎臓を彼女に渡したいと思います』


正直、プロポーズを受けてくれるかはかなり微妙だった。

彼女は結婚に関して確固たる意志があったし、幼馴染の強い愛情を前にしてもブレることはなかった。

そして何より俺たちは幼い。

結婚が可能な年齢とは言え未成年であり、結婚を意識するにはあまりにも世間を知らな過ぎる。

まだ中学を卒業したばかりの高校一年生の彼女にとって、そしてもちろん俺にとっても結婚は現実的でなかった。

ただ、弟の行く末をどうするか、家族全員が体調不良になるほど頭を抱えていた中で見えた一筋の光を手放すわけにはいかなかった。

幸いなことに、彼女がプロポーズを受けてくれて、未来が拓けたんだ。

弟の体は俺の大事な人の役に立ち、彼女の父親の信頼を得ることが出来、彼女は命を取り留めることが出来るのだから。

でも俺は課題をクリアしていなかった。

俺は間違っていた。