七夕の伝説


「私は特別扱いを受けてまで、移植を受けたくないです。もし倫理上許されたとしても、私は移植を待つ人に申し訳ない気持ちを抱えて生きていかなければならない。それなら天命を全うして、その間に出来得る限りのことをしたいです」

「今の菜那になにが出来る?」


黙って俯いていた芦屋さんが私の目を睨むようにして見てくる。

自分の意思が通らず、苛立っているのだろう。

気持ちが分かるから、なにも言わずにいると、芦屋さんがまくしたてるように話し出した。


「今、移植をしなかったことで命が短くなって、お父さんを看取ることが出来なくて、お父さんを悲しませることになったとしてもいいのか?特別扱いで申し訳ないって思うなら、俺みたいに移植を必要としている人のために動けばいいじゃないか。体を治してから。そもそも……」


芦屋さんが言葉に詰まり、顔を背けた。

様子を伺うように覗き込むと、目に涙が浮かんでいるのが見えた。


「見ないでくれ」


芦屋さんはそう言ったけれど、もう見えてしまったし、涙の理由も分かった。

立ち上がり、芦屋さんの前で跪いて彼の体を抱き締めた。


「ありがとう。ごめんなさい」

「なんだよ、それ。ずるいよ。俺ばっかり好きな気持ちが大きいんだ」


絞り出すような声と、涙を拭う手の動きに胸が締め付けられた。

こんなに好きになってくれて"ありがとう"。

悲しませるような想いをさせてしまって"ごめんなさい"。

私たちは出会うべきではなかった。

私たちの恋は身を滅ぼすものだから。


「どうか私のことは忘れてください」


今日からそれが私の願いになった。