七夕の伝説

聞かれて、少し躊躇った。

質問の答えは、初対面の人に話すべき内容ではないから。

でも、助けてもらったのと、ひとりでいる不安と持て余す時間をなくすために、腎臓に持病があること、母から腎臓移植を受けたこと、その後、別の病気で亡くなったことを話した。


「ごめん。辛いことを思い出させて」


謝ってきた芦屋さんに、確認のために、このタイミングで質問させてもらう。


「あの。さっきも聞きましたが、芦屋星さん本人なんですよね?」

「そうだよ」


芦屋星。18歳。

『心臓移植を受けています』

衝撃的なキャッチコピーと、傷を隠すことなく、雑誌の表紙を飾った彼の裸体は、世間から賛否両論の意見が持ち上がった。

でも隠すことなく、堂々とした彼の姿勢は間もなく受け入れられ、献血や医薬品のCMに抜擢。

愛くるしい笑顔と手術経験に伴う弱さが相まって、デビューから2年足らずでテレビで見ない日はないほどの人気を得ている。


「クラスの女の子たちが騒いでいるのをよく耳にします」


ドラマの翌日なんて、朝の話題は芦屋さんのことばかりだ。


「でもきみは俺のこと、あまり興味ないのかな?」


芦屋さんの方を見れば眉根を寄せた困り顔をしていた。

その表情を見て申し訳なくなる。

でも、興味がないわけではなくて、もしそういう風に聞こえたのなら謝るべきだ。


「ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。みんながみんな俺のファンじゃないことくらい百も承知だから。それに移植経験のある人にしてみたら、移植を売りにすんな、って思われても不思議じゃない」