七夕の伝説

たしかに、芦屋さんの言っていることは正しいのかもしれない。

ドナーは基本的には3親等以内の親族(親子、兄弟、夫婦、祖父母、孫、叔父母、伯父母、甥、姪、曽祖父母、曽孫)及び配偶者ならば問題ない、とされてはいるから。

ただし、今回の場合、タイミング的に明らかに結婚が移植目的のように思われるだろう。

金銭の授受がなくても、そこを疑われる可能性だってある。


「助かる可能性が目の前にあるのにどうしてだよっ?!俺の幸せだって、菜那と一緒にいることだとは考えなかったのかよ?!」

「ごめんなさい」


謝るしかない。

考えても、どう考えても、幸せな姿は想像出来なくて、頭に浮かぶのは不安ばかりだから。


「人は多かれ少なかれ病気に掛かるんだよ……」


芦屋さんの言う通りだ。

だから、私たちだけが特別に患うものではない。

でも朝を迎えられるかどうかという不安で眠れない夜を経験している私たちには、互いの気持ちが分かる分、どちらが再発したとしても、精神的に病む恐れがある。

特に私なんて芦屋さんと連絡が取れなくなっただけで食欲がなくなってしまったくらいだ。

芦屋さんが再発したら、心配で確実に体を壊すだろう。

それは芦屋さんにも言えることで、現に私の再発が分かった今、彼は冷静さを欠いている。

弟の腎臓を私に、なんて、そんなの普段の芦屋さんなら考えないはずだ。


「芦屋さんは今までたくさんの活動をしてきて、移植を必要としている人にたくさん接し、移植の順番を待つ人、そのご家族の辛さを知っているはずです。ご自身も。身をもって経験されていますよね?」


翳った芦屋さんの表情を見て、あえて言葉にする必要はなかった、と後悔した。

でも、言わなくてはならない。

言葉にしなければ芦屋さんはきっと、いつまでも絢さんの腎臓を私に受け渡そうとするから。