「菜那に絢の腎臓をもらって欲しい」
「え?」
なにを言っているのか、あまりに唐突ですぐには理解出来なかった。
でも、頭の中で反芻するうちに芦屋さんが昴と同じことを言っていることに気付いた。
「それって、二番煎じじゃないですか。冗談はやめてください」
体を離し、呆れたと言わんばかりに首を横に振る。
でも、芦屋さんは真面目な顔で冗談ではないと言う。
「昴さんの考え方は俺にもあったんだ。だから菜那が検査入院した時、お父さんに再発したら諦めてくれって言われたのを断った」
そういえば、と思い出す。
でも芦屋さんの話が続いたのでそちらに意識を向ける。
「俺は菜那の力になれる。昴さんには申し訳ないけど、俺は菜那と両想いだって思っていたから、俺からのプロポーズなら受けてくれると思った。現に菜那は婚姻届けを受け取って、提出してくれただろう?」
「私はただ役に立てるから、って思ったから。芦屋さんは私に生きる意味をくれたんだとばかり……」
でも違った。
これが、父が芦屋さんとの結婚を承諾してくれた本当の理由で、婚姻届の提出を急いだわけだったのだ。
「よかった」
「それはどういう意味?」
怪訝そうな顔をしている芦屋さんに小さく息を吐き出した後、正直に答える。
「私はまだ芦屋さんの身内ではないです。婚姻届は提出していません。私の判断は間違っていなかった。それにホッとしているんです」
言うと芦屋さんの表情が一変した。
「まさか、あれほど言ったのに、どうしてっ!?」
声を荒げた芦屋さんの顔は、怒りに満ちていた。
反対に私は冷静になっていた。


