七夕の伝説


「俺の心臓はまだ元気だよ。でも俺だっていつ再発するか、拒絶が起きるか、機能しなくなるか、分からない。菜那になら分かると思うけど、予測不能なんだ」


特に心臓は変わりがないから、生体間での移植は不可能。

他の治療法も再発となるとかなり厳しくなり、万が一のことが起きた場合、救えるのは再移植に絞られる。


「絢はずっと俺が治療を受けていたのを身近で見て、知っていたからドナー登録していたんだよ。親族優先提供も含めて」


親族に優先的に提供できる意思。

それを絢さんは書面に表示していた。

つまり、芦屋さんが必要になった時、優先して提供できるようになっているのだ。


「でも、タイミングよく再移植なんて起きないですよね?」


現に絢さんが脳死になっても、芦屋さんの心臓は元気で、移植を受ける必要がない。

それなのに芦屋さんのために生かされているというのはどういうことなのか。

そもそも私はなぜここにいるのか。


「ちょっと頭を整理します」


芦屋さんに断りを入れてから今まで聞いた話を自分なりにまとめることにした。


「えっと、絢さんは未成年……」


となると、絢さんの時間を止めるタイミングは絢さんの心臓が動き続ける限り、ご両親の判断に任されることになっている。

止めることをご両親が決断したら、絢さんの臓器は必要とされる患者の体内へと受け渡される。

でも、移植経験があり、再移植の可能性がゼロでない兄、つまり芦屋さんが身内にいる以上、芦屋さんが必要となる時まで生かしておきたい。

だから機械に繋げ、生かされているのだ。

絢さんの生前の想いと、ご両親の想いが混在する、複雑な状況。

それは理解できた。


「でも、何年くらい、あのままでいられるんですか?」


臓器自体の機能が弱ってしまえば、移植に回すことすら出来ないはずだ。


「機能が低下するまでの時間は個人差があるんだよ。明日一気に悪くなるかもしれないし、来年もまだ元気かもしれない」


そこまで言うと芦屋さんは大腿の上で握りこぶしにしていた私の手をそっと包んだ。

芦屋さんを見上げ、話の続きを待つ。

すると、芦屋さんは俯きながら言った。