講演会の時に聞いた内容だからうる覚えだけれど、確かなようで、芦屋さんは頷いてくれた。
「何もしなければ90パーセントは心停止するよ。でも絢は人工呼吸や昇圧剤、ホルモンの投与で人工的に心臓を動かしているんだ」
いつ心停止してもいい状況でも、実際に心停止しなければ、生きていることになる。
「ご家族が、絢さんの病状を受け入れられていないから延命処置をされているのですか?」
思い切って聞くと、芦屋さんは丁寧に答えてくれた。
「絢はもう目を覚まさない。目を覚ますことはない。それは分かっているんだ。俺の病気で脳死については家族がみんな勉強していたから。なのにまだここに寝かされている。ある目的のために」
話の途中から、不安が胸に渦巻き始めた。
鼓動が速まる。
浅くなる呼吸をなるべく深くすることを心がけた。
「聞きたくない?」
私の不安を芦屋さんは感じ取ってくれた。
でも、きちんと聞くべきだ。
覚悟を決めて芦屋さんに話を続けてもらえるよう頷いてみせると、芦屋さんは絢さんを見ながら言った。
「絢は俺のために生きて…いや、生かされているんだ」
芦屋さんのため、とは。
「もしかして、再移植ですか?」
聞けば芦屋さんはコクリと小さく頷いた。
そしてこれ以上は絢さんの前で話したくないと言い、廊下に備えられている長椅子に腰かけながら話の続きをしてくれた。


