「彼の身内には、いつ死ぬか分からない方がいるんだ。その人のために、菜那と結婚したいそうだ」
「その人のために?私と結婚?」
復唱してみたけれど、意味は分からない。
結婚って第三者のためにするものじゃなくて、互いが互いを必要として生涯を共にするためのものでしょう?
首をひねる私に、父はポツリと言った。
「父さんだってもし、余命宣告されたら菜那の花嫁姿を見たいと願うだろう」
それはつまり、芦屋さんの余命宣告されたご家族は芦屋さんの花婿姿を見たい、もしくはご家族が見せてあげたい、ということ?
その相手が私……って、あっ!
『私にも出来ることがあればいいのに』
自分で発した言葉が脳裏をよぎった。
その瞬間、ハッとした。
「もしかして」
芦屋さんは私の言葉を覚えていて、私を利用しようとしているのかもしれない。
ううん、利用するというのは言い方が悪い。
芦屋さんがそんな人じゃないってことも短い付き合いだけれど分かっているつもりだから。
芦屋さんは私に生きる意味を与えてくれているのだ。
『私に出来ること』があれば命を絶つことはしないし、身内の願いも叶えられるし、父に花嫁姿を見せてあげることも出来る。
芦屋さんの計らいは全ての人を幸せにするものだ。
ただ、昴は、昴だけは幸せにならない。
昴の好意を断っておきながら、芦屋さんの提案に乗って結婚なんて筋が通らない。
「さすがに」
この話には同意出来ない。
そう答えようとした時、父が言った。


