『菜那!無事か?!』
「大丈夫!お父さんはっ?!」
『今、停電の影響で信号機が消えていて動けないんだ。でも警察が出て動き始めている。だからお父さんは大丈夫だ。菜那は安全な場所で待っていてくれ。着いたらまた電話するよ』
良かった。
無事で、本当に良かった。
膝から力が抜け、その場にしゃがみ込む。
「良かったな」
頭に乗せられた手が1、2度、優しく髪を撫でてくれた。
「すみません。ありがとうございます」
お礼を伝えたものの、力と気が抜けて立ち上がれそうにない。
「このまま、ここで父を待ちます」
それだけ伝えると、なぜだか芦屋さんも隣に腰をおろした。
その様子を伺い見ると芦屋さんはどこか遠くを見ながら呟いた。
「すごい雨だな。こんな大雨で、織姫と彦星は会えたのかな」
朝、家を出るときに私が思ったのと同じことを口にした芦屋さんに親近感がわいた。
「七夕の日に降る雨は」
芦屋さんと同じように遠くの空を見ながらそう切り出す。
芦屋さんが私の方を見たのが視界の端に入ったので、そのまま七夕に纏わる話を口にすることにした。
「織姫のうれし涙っていう説もあるそうですよ。今年はちょっと激しいですけど」
「あ…ハハ。そうだな。たしかに激しいな。ハハ」
芦屋さんが声を出して笑った。
些細なことだけど、状況が状況なだけに笑い声が心を軽くしてくれる。
「あー。なんか久しぶりに笑った」
それほど笑える話ではないけど…と違和感を抱きながらも自分の話で笑ってもらえたのが嬉しくて、緩む口元を隠すように俯くと、少しの間のあと、芦屋さんが話しかけてきた。
「ねえ、きみは七夕になにを願ったの?さっき七夕の願い…みたいなこと言っていたけど」


