「昴は私に腎臓をあげてもいい。その覚悟を持ってプロポーズしてくれたんだよ?それを断っておいて、芦屋さんと結婚なんて、意味分かんないし、出来るはずないじゃないっ!そもそもなんでお父さんはこの状況を受け入れているの?」
父は検査入院の時、芦屋さんと付き合うのは再発したらダメだと言っていた。
現に父は、芦屋さんに私と別れるよう話したと言っていたではないか。
「お父さんはね、菜那の今の状態で、芦屋くんと別れさせるのは酷だと思っていたんだ」
父はベッドサイドに腰を下ろし、私とは視線を合わせず、俯き加減で話し出した。
「もちろん、菜那が昴くんの申し出を受けてくれたら一番良かったんだ。でも、菜那のことだから断るとは思っていたんだよ。その上で芦屋くんの菜那への気持ちを知って、菜那の支えになってあげて欲しいと頼んだんだ。自殺でもされたらたまらないからね」
苦笑いの父に私はなにも言えなかった。
机に片付けたカッターナイフに目を向ける。
父は私以上に私のことを理解してくれていたようだ。
ただ私には分からない。
「それがどうして婚姻届になるの?」
静かに問うと、扉の外から答えが返ってきた。
「余命幾ばくもない家族がいるから」
「え?」
唐突な話の内容にまた頭が混乱する。
父が話を捕捉してくれた。


