七夕の伝説


「美味しい」


いつも通りの少し濃いめの塩加減。

美味しいと感じられることで、生きている実感も湧く。

でも、いったい、これからなにをモチベーションに生きていけばいいのだろう。

父を看取る。

その願いが叶う見込みがないのなら、生き続ける意味なんてないのではないだろうか。

父への負担はこれから更に増す。

いつまでも父は若くないし、仕事をしなければ治療費だって払えない。

治療が上手くいけばまだいい。

でももし治療に効果が出なくて、症状が悪化して、移植しか手立てがなくなった時は、順番待ちという精神的負担も荷重させてしまう。

誰かの臓器をもらわないと生きていけないなんて。

電力の供給を必要とし、不良になった部品を交換してもらわないと動かないロボットと同じじゃないか。

いや、感情がある分、余計に私の方が悪い。

昨日はクリスマスツリーを燃やしてしまおうと考えた。

今は死ぬことが怖くてたまらなくて、昴の腎臓をやっぱりもらおうか、なんて考えてしまう。

昴にも芦屋さんにも失礼なことだと分かっているのに、生きることに執着しようとしている。

恋を経験した今、恋することでしか味わえない幸せな感覚とドキドキをもっと知りたいと思い、再発を機に、父に親孝行したいと思い、楽しい思い出を作りたいと思うのだ。

どうしようもない。

私はもう、どうしようもないのだ。

自己中で病弱で、迷惑と心配をかけることしか能のない私は生きる価値がない。

だから神様は私の願いを叶えてくれないのだろう。

それなら……それならいっそのこと、自ら命を断とう。

私はおもむろに立ち上がり、机からカッターナイフを取り出した。

そして手首に刃を当てた時。


ピンポーン


インターホンの音が鳴った。