翌朝。

頭がぼーっとする。

目も腫れぼったい。

鏡を見なくても自分の顔が変わってしまっていることは容易に想像出来る。

こんなに泣いたのはいつ振りだろう。

あぁ。

母を亡くした時だ。

身が裂けそうなほどの悲しみ。

いつもいた人が突然いなくなる喪失感。

どちらも時間とともに薄れているけれど、私自身の死が現実味を帯びてきた今、父や昴、芦屋さんの心が同じ苦しみに遭うのだと思うとやりきれない。

どうにもならない自分の体が悔しくて、また涙が溢れてきた。


コンコン


「父さんだ。入るぞ」


泣いているのを知られたくなくて、布団を急いで頭まで被る。


「学校には休みの連絡入れておいたよ」


父が部屋に入って来る直前には布団を被った状態になれたのに、父は私が起きていることを知っている。

16年一緒にいるのだから、狸寝入りだって分かってしまう。

と同時に、私も父の様子がよく分かる。

声の感じはあくまで自然体だけれど、疲労感は隠しきれていない。

おそらく不安を払拭するために、夜遅くまで治療について調べていたのだろう。

私が昴の申し出を断ってしまったから……。


「ごめんね」


布団の中から謝ると、父はローテーブルの上に何かを乗せた。


「菜那の好きなたまご粥、作ったから置いておくよ」


父は私が具合悪くなるたびに、たまご粥を作ってくれる。

少し濃いめの塩加減が口当たり良くて、初めて食べた時、「これなら食べられる」と言ったのをずっと覚えていてくれているのだ。


「ありがとう。いただきます」


これ以上、父に心配は掛けたくなかったから、父が部屋を出て行った後、布団から出て床に正座し、木製のスプーンを手に取った。