七夕の伝説


「どうしてそこまでしてくれるの?」


好きってだけで、まして両想いなわけでもないのに臓器を渡すなんて普通じゃない気がした。

昴に理由を聞くと、昴は私の目を見て言った。


「四年前。菜那が死んじゃうかもしれない、って母親から聞いた時、胸が抉られるほどの衝撃を受けた。菜那のことは妹みたいな感覚で見ていたからそのせいだと思ったんだけど違ったんだ。菜那に男の気配が出はじめたのを知った時、内心穏やかじゃなかった。菜那に触れるな、菜那のこと呼び捨てにしていいのは俺だけだ、って独占欲まで出てきたんだよ」


今まで溜め込んでいた気持ちが言葉になって溢れているみたいに次から次へと出てくる。

昴の言葉はまだ続いた。


「もちろん菜那が他の男を好きで、俺のこと男として意識してないのは分かっている。だから今更、俺を好きになってくれとか、何かを期待したりしない。ただし」


昴はそこで区切ると玄関の入り口で立ち尽くしている芦屋さんの目の前に立ち続けた。


「お前ではダメだ。お前に菜那は救えない。お前は菜那の恋人として失格だ。そうだろ?」

「そんなことはない。俺だって」


なにか言いかけた芦屋さんの言葉を昴が遮り、高圧的に攻める。


「お前は心臓に疾患を持っている。愛しい人にさえ臓器をあげることの出来ない人間だ。違うか?」


昴に言われて、芦屋さんの拳にグッと力が入ったのが分かった。

私のせいで嫌な思いをしていることが耐えられない。


「お願い。もうやめて」


そう呟いた直後、昴はガバッと深く頭を下げ、芦屋さんに向かって言った。


「健康だけが取り柄の俺なら菜那に腎臓をくれてやることが出来るんだ。だから婚姻関係を結ぶこと、許可してくれ。頼む」

「昴っ!」


頭をさらに下げた昴を見て、黙ってなんていられなかった。

昴の腕を掴む。


「お願い。頭を上げて。私は昴から腎臓をもらわずに、ほかの治療法で治してみせるから」