七夕の伝説


「ねぇ、ほんとに大丈夫?」

「あ、すみません。大丈夫です」


凝視しまったことが恥ずかしくて俯き、手元のスマートフォンを握り締めた。

と同時に父の存在を思い出し、急いで通話ボタンを押す。


「なんで…なんで繋がらないの…」

「誰?家族?」


芦屋さんがスマートフォンを覗き込み、聞いてきたので、小さく頷いた。


「父と連絡が取れなくて……何かあったらどうしよう。私の七夕の願い。こんな風に叶えて欲しいわけじゃないのに」


激しい雨を振り落とす天を仰ぎ、またガタガタと震え出した体を自分の手で包み込む。

不安で涙が溢れてきて、通話ボタンが霞んできた。

拭っても拭っても溢れる涙にイラつきさえ覚え、自分の弱さが余計に苛立たせる。


「…っ!」


嗚咽が漏れ、唇を噛み締めた時、スマートフォンを握りしめている手が優しく包み込まれた。

なにも言わずに優しく。

「大丈夫」だなんて気休めは言わない。

ただ、私の手をすっぽり包み込む大きな手の温もりに触れて、苛立っていた気持ちが少しだけ落ち着いた。

でもそれもつかの間。


「みなさん!慌てないでください!落雷の危険がまだあるのでその場を動かないで!」


大声で叫ぶ駅員の声に緊張が走る。


「どうしよう!危険って…お父さんっ、お父さんっ!」


取り乱す私の手を芦屋さんがさらに強く握り締めてくれた時、手の中のスマートフォンが震えた。

その振動は彼にも伝わり、手が離れ、私は急いで通話ボタンを押す。