七夕の伝説


あまりに予想外の反応に、少しだけムッとして昴を見上げる。

でも、昴は口角を上げたまま、横目で私を見下ろし、言った。


「俺がドナーになってやるよ」

「え?」


昴はなにを言っているのだろう。


「ドナーになるって簡単に言うけどね、『なりたいです』って言ってなれるものじゃないんだよ?」

「そんなの知っているよ。菜那が移植受けた時、勉強したから」


昴には入院した詳しい事情を話したつもりはなかったのに、ご両親から聞いていたのかもしれない。

その上であえて今まで詮索せず、でも病気のことを調べてくれていた昴の気持ちがとても嬉しかった。


「ありがとう」


素直にお礼を伝えると、昴は照れたのか後頭部を掻いた。


「ただね」


話を元に戻そうとした時、昴が先に言葉を口にした。


「来月の俺の誕生日に、入籍しよう」

「……はい?!」


予想外過ぎる発言に空いた口が塞がらない。

昴をただただ見上げていると、肩に回されていた手が外れ、私の正面に回り、今度は両肩を掴んでから目線を合わせるように身を屈めた。

至近距離に昔からの付き合いなのにドキドキしてしまう。

それは昴も同じようで、一度顔を背けた。

でも、すぐに視線をこちらに向け、真面目な顔して言った。


「俺は菜那が再発したら必ずプロポーズしようって考えていた。菜那のことが好きだから」


まさかの告白に頭が真っ白になる。


「答えは急ぐ」

「そこは急がないじゃないの?」


ツッコミは反射的に入れてしまったけれど、昴が言うように私の体には、ゆっくりのんびりと考えている悠長な時間はない。

かと言って、恋愛感情を抱いていない昴に腎臓だけくれ、というのはおこがましいし、したくない。

父の顔が浮かんでも、私には首を縦に振ることは出来なかった。

ただ、タイミング悪く、その場に帽子を目深にかぶり、マスクをつけた芦屋さんが現れてしまい、答えは保留。


「菜那?どういうこと?再発って……」


どうやら話を聞かれていたようだ。


「あ、あの…えっと…」


どこからどこまで聞かれていたのか。

どこから説明したらいいのか。

視界に入る昴の存在と、明らかに不機嫌そうな芦屋さんの姿が余計に混乱させる。

泣いた後だから目が重く、頭も重い。

こめかみが痛い。


「菜那。帰るぞ」


痛む場所に指先を触れただけなのに、昴には私が具合悪いことが分かるらしい。

私の腕を掴み、直後、目の前で中腰になった。