「きゃあっ!」
掴まれている手から視線を辿り、顔を見る。
すると声をかけてくれていたのは、フードを被った、あの怪しげな男性だった。
「っ!っ!」
怖くて声が出ない。
見兼ねた男性が私から手を離した。
「悪い。余計に怖がらせたよな」
こんな状況でもやけに冷静な声を出した男性は、ガタガタ震える私に見えるように身を屈め、フードを外し、マスクを下げた。
「あ…あなたは」
サラサラの黒髪に色白の綺麗な肌。
アーモンド型の瞳に、すっと通った鼻筋、薄めの唇。
完璧過ぎるほど整った顔立ちの持ち主は、女子高生の注目の的。
芸能人の芦屋星だ。
歳はたしかふたつくらいしか違わないはずだけれど、テレビやメディアで見るより大人びた印象を受ける。
「本…物?」
「本物」
そう言って苦笑いを浮かべた芦屋さんは素早くマスクを付け直し、フードを被った。
「でも、少しは冷静になれた?」
目だけしか見えなくても、微笑んだことが分かるくらいの優しい瞳。
それを目の当たりにして、こんな状況にも関わらず芦屋星に夢中になる女性の気持ちが分かった。


