七夕の伝説


「いいんだよ、恋愛をしても」


首を横に振るも、父は言う。


「父親はどんな状況だって子供を心配するものだ。だから菜那が恋愛をする、しないで心配するわけじゃないよ。むしろ菜那には恋愛をして欲しいと思っている。つらいこともあるかもしれないけど、幸せだって感じられる。生きていることを実感できるから。ただ今、この瞬間は許可できない」


父は芦屋さんの方を見て言った。


「検査結果が出るまで待って欲しい。そして結果が万が一悪いものだったら潔く諦めて欲しい。これはきみのためでもある。だからそういうことにして貰って構わないかい?」


父の言葉を受け、芦屋さんは視線を下げ、しばらく考えるようにして口を噤んだ。

そして顔を上げると首を横に振った。


「なぜ?」


父の問いかけに芦屋さんは答える。


「菜那さんを諦めたくはないから。菜那さんは俺の運命の人だから。菜那さんと巡り会ったのは偶然じゃない。必然なんだ」


芦屋さんの絞り出すような声にただならぬ雰囲気を感じた。

でもそれが何なのかはもちろん分からない。


「俺はきっと菜那の力になれる」


病室に響いた芦屋さんの力強い声。

それを耳にして父も私もなにも言うことが出来なかった。

芦屋さんが部屋から出て行き、残ったのは腑に落ちない感情。


「フッ」


静かな部屋に父の笑い声が上がった。


「どうして笑うの?」


聞けば父は笑わずにいられないと言う。


「ドラマみたいだな、って思ってさ。『諦めない』とか『力になれるから』とか『運命』とか。熱すぎるし、若すぎる。いいことだけど、現実的じゃないんだ」


父はそう言うと眉根を寄せ、切ない笑みを浮かべながら私を見て言った。


「菜那を幸せにしてくれる男はきっと他にいるよ」

「そうかな?」


芦屋さんを否定されたことに少し傷つきながらも感情には表さず聞き返すと父は柔らかく微笑んで言った。