「好きだったんじゃないのか?」


昴のストレートな質問に、フッと鼻で息を吐き出し、首を横に振る。


「恋愛って体に悪いんだよ。聞いていた話と全然違ったの。それに苦しいばっかりで楽しくもないの。体にいい恋愛はあるのかもしれないけど、私には出来なかった」


俯いた私の頭に、ゆっくりと昴の手が乗った。

見上げると昴はぶっきらぼうに言った。


「体にいい恋愛が知りたくなったらいつでも俺が教えてやるよ」

「へえ。フフ。ありがとう」


昴の私を気にしてくれている気持ちが、社交辞令でも嬉しくて、笑ったら心が少し軽くなった。


「昴の恋愛話、聞きたいなー」


調子に乗って聞いてみる。

でも昴はそっぽ向き、私の髪を乱暴に撫でた。


「過去は過去。それより元気そうだからもう帰るぞ」

「え?もう?」


私の話しかしていないのに。

ただ用があるという昴を引き止める訳にもいかず、時間を持て余した私は一階の売店まで暇つぶしに降りることにした。

でも、売店に足を運んだのは間違いだった。

棚に並ぶ雑誌の何冊かの表紙に映し出されているのは芦屋さんの笑顔だったから。

パッと背を向ける。

ただ週刊誌に芦屋さんと連絡が取れなくなった理由が書かれているかもしれないと思ってしまったら、無意識のうちに踵を返し、芦屋さんの眩しい笑顔が載っている週刊誌を手に取っていた。