傘を受け取るのを忘れたことに帰宅してから気が付いた。
「ま、いっか」
もう芦屋さんと会うことはない。
『幸せな時間をありがとうございます。でも、もう会うことはありません。そう芦屋さんにも伝えておいてくれませんか?』
帰りの車中で越水さんに伝えた。
『やっぱり恋愛は体に悪いとしか思えないので』
そう加えると越水さんは黙ってうなずいてくれた。
だからもう、関わることはない。
関われば感情はぐちゃぐちゃになり、頭は混乱し、平常心を保っていられなくなる。
心が乱され、体が疲弊し、考えることさえも億劫になるなんて何一つ良いことがない。
「はぁ」
大きくため息を吐いた。
と同時に部屋のドアがノックされた。
「菜那。大丈夫かい?」
帰宅してからなかなかリビングに降りて行かないものだから父が心配して部屋の外までやって来たようだ。
私はベッドから重い腰を上げ、部屋のドアを開けて、父に顔を見せる。
「顔色は悪くなさそうだな」
「うん。大丈夫だよ。ご飯にしよう。お腹ペコペコ」
本当は疲れもあって空腹ではなかったけれど、父に心配掛けまいとお腹をさする仕草を見せながらリビングへと降りる。
そしてなんとか食べ物を胃の中に押し込み、モデルの仕事、ウェディングドレスの着心地など、父に聞かれるまま答えた。


