七夕の伝説


「監督~。空気読んでくださいよ~。あともう少しでキス出来たのに」


芦屋さんの大袈裟なくらい残念そうな声に笑い声が起きる。

でも私は笑えなかった。

いつから撮影が始まっていたのか。

私はわからなかったけれど、芦屋さんはそれにきっとちゃんと気付いていて、雰囲気を作るために甘い言葉を発した。

にも関わらず、私は本気に受け取り、撮影だってことも、交際を断ることも忘れて、目まで閉じてしまったのだ。

恥ずかしくて、そして意思の弱い自分が情けなくて、やるせない。


「着替えていいですか?」


芦屋さんに向ける顔がなくて、スタッフの方と談笑している芦屋さんの横をすり抜け、越水さんに確認する。


「大丈夫よ。着替えたら送るわね」


越水さんに会釈し、すぐに更衣室へと戻り、制服に身を包んだ。