七夕の伝説


「越水さん」


介添えをしてくれる越水さんに声を掛けた。


「なに?」

「あの。ありがとうございました。この機会を与えてくださって」

「どういたしまして…って言いたいところだけど、本番はこれからだから。お礼は仕事で返してね」


仕事第一の越水さんがおかしくて、小さく笑うと、じっと見つめられた。


「な、なんですか?」

「いや、可愛いな、って思って。ねえ、このままうちの事務所に入らない?」


社交辞令とも取れる話に首を傾げて応えていると、スタジオの入口から「お願いしまーす」という声が上がった。

そちらに目を向ければ、グレーのタキシードを着た芦屋さんが入ってきた。

華があり、纏う空気でさえ周りと違う。

「かっこいい」なんて言葉では言い表せない。

凝視するように見つめていると、私に気付いた芦屋さんの足が止まった。


「どうした?」


カメラマンの吉田さんに聞かれても芦屋さんが動かない。


「ダメだ、ありゃ」


越水さんはそう言うと私から離れて芦屋さんの手を引き、無理やりこちらに連れて来た。