七夕の伝説


父が休みでよかった。

好意をありがたく受け取り、迎えが来るまで人混みを避けるように壁際に張り付き、混乱状態の構内をぼんやりと見つめる。

そんな折、ふと視界の端に、マスクで顔を隠し、フードを被った怪しげな人が入り込んだ。

様子を伺うようにひっそりと姿を見るも、顔の見えない不気味な雰囲気に怖さを感じ、その場を離れることに決めた。

でも私が動くより先に男性はこちらに近づいてきて、あろうことか私の隣に立ち、同じように壁にもたれた。

これだけ広いのに、なぜ私の隣に来たのか。

ただの偶然だとしてもやはり怖くて、気持ち悪くて、その場を離れようと足を一歩踏み出した瞬間、ゴロゴロドーーンッ、という激しい音を立てて稲光が起き、雷が落ちた。


「え?!」


パチッと構内の明かりが全て消えた。

突然の停電に現場には悲鳴のような声が挙がる。
騒ぎ立てる人の声。

駅員の叫ぶ声。

右往左往する人、人、人。

身動きの取れない状況と、パニックを目の当たりにして、呼吸が浅くなる。


「お父…さん」


助けを求めるかのように、呟いた。

と同時に父の安否が気になり、急いで手にしていたスマートフォンで父に発信する。