七夕の伝説


「綺麗な傷じゃん」

「そんなお世辞は要りません」


冷たい口調で言うと、芦屋さんは小さく笑った。


「そうだね。たしかに傷自体は結構目立つよ。でも菜那の命を繋ぎ留めた傷だ。すごく尊いし、すごく美しいって俺は思う」


芦屋さんの言葉が胸を打つ。
 

「苦しいです」

「え?あ、ごめん。もう少し緩く編み上げなきゃいけなかったかな?」


慌てる芦屋さんに違う、と首を横に振る。


「芦屋さんといると苦しい。本当にこんなので長生き出来るんですか?」


前に芦屋さんが恋愛は体にいいと言っていたけれど、張り裂けそうになる胸は寿命を縮めているようにしか思えない。


「昴さんといる時は?」

「え?」 


芦屋さんの口から急に昴の名前が出て来て驚いた。

黙っていると質問が重ねられた。


「菜那は昴さんのことどう思っているの?昴さんのことは好き?」

「はい。好きです」


当たり前のように答えられる。

でも、鏡に映る芦屋さんの顔が露骨に歪んだ。

人として好きという意味で言ったのだけれど、恋愛対象だと思ったのだろう。

傷ついた表情からそう読み取れた。

ただずるくて、苦しい私は勘違いしてくれても構わないと思い、弁解しなかった。


「昴さんのどこが好きなの?」


芦屋さんに聞かれて目を閉じ、昴を思い浮かべ答える。


「昴は見た目、派手な格好を好むので、とてもやんちゃに見えます。実際、やんちゃなグループに属していることもあったんですけど、男友達を大事にするし、子供に懐かれるし、人のことをいつも考えているから的確なアドバイスだってしてくれる。母から腎臓をもらうことを躊躇していた私の背中を押してくれたのは昴なんです」

「なんて言われたの?」


目を開け、気だるい昴の口調を真似て答える。


「『生きてなきゃ親孝行できねーぞ』」


親不孝なことしか出来ていなかった私にとってこの言葉は胸に響いた。

だから『生き死にの順』の意味があの時点で分からなくても、移植を受けたのだ。