にべないオウジ



「……あ、うん。今日晩ご飯要らないって、ママに言っといてほしいの」

『えー、今買い物行ったばっかだよ。4人分買って帰ってくるだろうね。あーあ、怒られるよー』

「え、お姉ちゃん、お、お願い。なんとか言い訳しといて!」

『えー、どうしよっかなぁー。なんで急に要らなくなったわけ?』


お姉ちゃん、という言葉を耳にしたからだろうか。オウくんが胸を掴んでいた手を離して、私をじっと見る。

その視線が何故か痛くて、私は顔を逸らした。


「い、言いたくない…」

『あ、分かった。桜司でしょ』

「なんで分かるの!?」

『透子が秘密にする時は大体桜司関係って昔から決まってんのよ』


また適当なことばっかり。電話越しにむくれると、姉はくすくすと心地いい笑い声を出す。

私は昔から、お姉ちゃんみたいになりたかった。背筋が伸びていて、運動ができて、勉強もできて、いつも笑顔で、言いたいことをなんでも言えて、友達が多いお姉ちゃんみたいに。


『しゃあない。妹の叶わぬ恋を応援するためにお姉ちゃんが人肌脱いでやるか』

「一言余計だよ…」

『桜司によろしく言っといてね』


この人は自分の言いたいことことが言い終わったら一方的に電話を切る。かけたの、私なのに。

スマホを耳から外してオウくんを見ると、同じように私を見ていたので目が合った。