私は今、少し、いやかなり強引な彼に迫られている。
「ねえ、透子ちゃんっ。今日俺ん家で鍋パするんだけど、透子ちゃんも来ない?来るよね?予定ないよね?」
「え、あ、近い、遊馬くん近い」
咄嗟に後ろに下がろうとするけれどその必要はなく、遊馬くんは「ぐえっ」と苦しそうな声を出して、後ろに引っ張られた。
オウくんだ。オウくんが、強く遊馬くんを引っ張って後ろに下がらせる。
仁見さんとのあの場面を見られてから、話していない。気まずくて目を逸らすと、オウくんから溜め息が聞こえた気がした。
なんで溜め息、吐くの。
「……こんな暑いのに鍋?」
「暑いから鍋するんじゃん。汗だくになりながらキムチ鍋するんじゃん!」
あ、私キムチ鍋ダメだ。やっぱり断ろうとすると、オウくんが口を開く。
「こいつ辛いのダメだから。他のにして」
そう、シレッと言ってのけて、なんてことないように他所を見る。遊馬くんは「そうだったんだ。じゃあ火鍋にする?」と訳の分からないことを言った。
私が辛いの食べれないって、オウくん、知ってたんだ。

