今にも俺を捻り殺しそうな工藤くんから逃げるようにその場を離れ、後からついてきた桐島さんと二人で大学内を歩く。
もう何度目か分からない溜め息。桐島さんのくすくす笑う声が聞こえた。
「分かります。なんか驚きすぎて落ち込みますよね。私もそうでした」
「いや、なんか、なんだろう。もはや落ち込むね、うん…」
「不器用超えてますもんね。だけど気付いてからちゃんと桜司のこと見てみると、意外と分かりやすいんですよ」
その姿を見てみたい気もするし、見たくない気もする。
複雑な心境にまた頭を悩ませると、桐島さんが可笑しそうに笑った。この子はよく笑う子だ。裏表がなさそうで、話していて安心する。
久瀬さんのことを一番に思っているだろうし、工藤くんのことも応援しているだろうけど、お節介なことはしない。
ちょうどいい距離感。
今、俺と桐島さんの間にある、この1メートルの距離みたいに。
「……桐島さん、」
「キリでいいですよ」
「キリ、ちゃん」
「ふふ、はい。あ、仁見さんの名前、なんて言うんですか?」
風に揺られる彼女の髪をぼうっと眺めながら、俺は答える。かおる、と。

