とりあえずこの場から逃げないといけないと頭の中で警報が鳴り、苦笑いをしながら後退する。
その瞬間、男は物凄い速さでこちらまで歩いてきて、強すぎる力で肩を掴まれる。わあ、弓道が上手いくせに競歩まですごいんだあ。
「おい陰キャ男、面貸せよ」
ご遠慮願いたい。
そう意味を込めて苦笑いを続けてみるけれど、この王子様にそんなことが叶うわけもなくて、俺は引きずられる家畜のようにテラスへと運ばれた。
その様子を見ながら遊馬くんが爆笑している。
さっき俺の身を案じてこっち来ないでって言ったんだったら、何故今助けてくれないんですか。
もうやだよ。この人めちゃくちゃ目立つから周りからの視線がすごいし、クソダサ陰キャはそういう視線に慣れてないんだよ。
「あ、あのう、どんなご要件でしょうか…?」
ドンッ!!
工藤くんが強くテーブルを叩くので、「ひいっ」と肩が揺れる。
「お前、あの時、透子に………キ…」
「キ?」
「キ、キ……っだめだ、言葉にしたら辛すぎて無理。心臓壊れる」
「仕方ないなぁ。桜司の翻訳機、遊馬様が代わりに言ってやんよ」
今、俺の目の前に座っているこの男は、本当に工藤桜司なのだろうか。

