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久瀬透子という女の子は、ちょっと不思議だ。
ぼうっとしているように見えて何もないところで躓いたりはしないし、何も考えていないように見えてたまにひどく大人びた顔をする。多分それは、彼のことを考えている時。
きっと今まで異性から好意を向けられたことはあるだろうけど、本人はそれに気付かない鈍感な女の子…って訳でもなくて、単に自分に自信が持てなくて見て見ぬふりをしてる。
彼女に自信が持てないのは、傍に彼がいて、その彼との圧倒的な差に愕然としているからではないだろうか。
俺だって、彼には到底届かない、天と地、月とすっぽんだと思ってるけどさ。
だけどあの時、キスしそうになったのはまずかったよなぁ。と俺はキャンパス内を歩きながら溜め息を吐く。
彼の代わりに泣くのだと、見た目はか弱い小動物みたいなのに、強い心を持った彼女を見て、思わず手を伸ばしていた。
俺のものになったらいいのに。
そう思ってしまったんだ。
キャンパス内のテラスを通り過ぎると、久瀬さんの友達の桐島さんと、遊馬くん、と言っただろうか。その彼と、もう一人、テーブルに突っ伏している黒髪の青年。
桐島さんは俺の顔を見て、ぎょっとした顔をした。

