足の裏が地面にくっ付いたみたいに動けなくなって、仁見さんの指が私の頬を撫でるのを、ただ受け入れることしかできなかった。
気付いた時にはもう、仁見さんが鼻が擦れるほどの近さにいて、唇が触れるか、触れないかの、ギリギリ。
慌てて両手で彼の胸を押し、その反動で二歩後ろに後退する。
この暑さは、絶対気温だけのせいじゃない。
自分からしたことなのに、仁見さんは驚いたように目を丸くしてまた「ごめん!」と謝る。びっくりして、急に心臓の鼓動が速くなって、体が熱い。
男の人と付き合ったことがない私でも分かる。今、キスされそうになった。
不意に、風が吹いて、私は風の流れるまま、左を向く。
もう太陽の沈み切った空の下に、サークル終わりのオウくんが女の子を何人か連れて立っていて、こちらをじっと見つめていた。
「オ、オウくん…」
「こっち来んな」
無意識に、足のつま先が彼の方を向くのを、すかさず止められる。ビクリ、固まったまま、ひどく冷たい顔をするオウくんから目が逸らせなかった。
「ち、違うの、あのね、今のは」
「お前の顔なんて、見たくもない」
どうして私、オウくんに言い訳しようとしたんだろう。そんなこと、オウくんにとってはどうでもいいことなのに。

