桜司が左手に持つビニール袋を透子ちゃんに渡す様子を、座りながらぼうっと眺めていた。
「……何?これ」
「チョココロネ」
「チョココロネ?なんで?」
「いいから食べろ」
「え、もうお昼食べたけど…」
「いいから食べろっつってんだろ、とろい」
乱暴に言い放って桜司は俺の隣の椅子に腰掛けるので、透子ちゃんも元に座っていた椅子に座り直した。
困惑して頭にはてなマークを10個くらい並べているのに、この男は口下手というか説明が足りなすぎるというか、何というか。
信じられないけど、一応聞いてみる。
「……あー、透子ちゃんって、何座?」
「え?さそり、座…」
「りょーかーい」
お前どんだけ健気なのよ。てかわざわざ買いに行ったならなんで俺の分買ってくれないのよ。ひどくない?教えてあげたの俺ですけど。
「あ、ここ、私が美味しいと思ったパン屋さんのだ」
透子ちゃんがふわりと微笑む。たったそれだけで桜司は満足なのか、もう興味ないと言わんばかりに透子ちゃんから目を逸らして頬杖をついた。
あー、はいはい。ご馳走様。
この男の言葉一つで何でも叶えられそうで、何人もの人が従いそうなのに、こんなにも健気に好きな子の一日が平和に終われるように願うこの王子が、最高にいじらしくて、最高に面白い。